どんなスポーツでも若いうちから活躍すると「天才」と言われる傾向があります。しかし、10代ではそれほど活躍していなくても、その後に大活躍する選手も少なくありません。ゴルフにおける「天才」の定義はあるのでしょうか。

ゴルフは早く始めた選手ほど上達が早い傾向

 東京オリンピック2020の卓球女子シングルスで銅メダル、混合ダブルスで金メダルを獲得した伊藤美誠選手がパリオリンピック2024の代表選考で落選しました。

 伊藤選手は2000年10月21日生まれの23歳で、卓球選手として力が衰え始める年齢ではありません。代表に選ばれた早田ひな選手と平野美宇選手は伊藤選手と同学年です。それなのになぜ、代表選考から漏れてしまったのでしょうか。

ゴルフは始めた年齢は若いほど上達が早い傾向がある 写真:AC
ゴルフは始めた年齢は若いほど上達が早い傾向がある 写真:AC

 いろんな要因はあるのでしょうが、明らかに言えるのは東京オリンピック2020が終わってから2024年を迎えるまでの成長度合が他の選手に比べて劣っていたということです。

 逆に言えば、リオデジャネイロオリンピック2016と東京オリンピック2020の時点では他の選手よりも成長度合が速かったということです。

 伊藤選手は早くから日本代表選手として活躍してきましたから、天才と呼ばれることもありましたが、23歳の時点で他の選手に追い抜かれたということは早熟という表現のほうが当てはまるのかもしれません。

 もちろん、これから調子を取り戻して2025年の世界卓球でメダルを獲得したり、2028年のロサンゼルスオリンピックで代表に復帰したりする可能性もありますから、早熟という表現が当てはまるかどうかもまだ分かりませんが、アスリートの成長曲線は必ずしも右肩上がりに一直線とはいかないわけです。

 これはゴルフもまったく同じで、小学生や中学生のうちから世界大会で活躍するとすぐに天才ともてはやす風潮がありますが、ゴルフは早く始めた選手ほど上達が早いのは当たり前で、そんなのは天才でも何でもありません。

 そもそも小学生や中学生で子どもにゴルフばかりやらせるのは日本や韓国などアジアの国々だけで、ゴルフ王国のアメリカ合衆国はサマースポーツとしてゴルフ、ウィンタースポーツとしてバスケットボールなどを両立する二刀流が主流です。

 そうやって育ってきた選手たちが世界ランキングの上位を占めているわけですから、日本のアスリート育成は少しいびつなのかもしれません。

アスリートが成長する時期は人それぞれ

 男子プロゴルファーの石川遼選手は中学時代、陸上部に所属しており、ゴルフと陸上の二刀流で高校1年生の2007年5月に「マンシングウェアオープンKSBカップ」でアマチュア優勝を達成しましたが、10代での活躍と20代以降の実績を見比べると、彼も天才ではなく早熟だったのではないかと思わずにはいられません。

 石川選手と同学年の松山英樹選手は2011年の「マスターズ」で日本人選手として初めてローアマチュアに輝きましたが、この試合で石川選手は通算3アンダー20位タイに入っており、通算1アンダー27位タイの松山選手よりも上の順位でした。

 しかしながら、2013年に松山選手が大学4年生で年間4勝を挙げて賞金王に輝き、PGAツアー本格参戦1年目の2014年6月に「ザ・メモリアルトーナメント」で初優勝を飾ったころには日本のエースの座は完全に入れ替わっていました。

 女子プロゴルファーの渋野日向子選手も高校2年生のときに団体戦で日本一に輝いた実績はあるものの、10代から目覚ましい活躍をしていたわけではありません。

 同学年の勝みなみ選手が高校1年生の2014年4月に「KKT杯バンテリンレディスオープン」でアマチュア優勝を成し遂げ、畑岡奈紗選手が高校3年生の2016年10月に「日本女子オープン」でアマチュアを達成していますから、10代の実績は2人のほうが完全に上です。

 ところが20代に入ると渋野選手が2019年5月の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」で初優勝を挙げ、7月の「資生堂 アネッサ レディスオープン」で2勝目を挙げた直後の「AIG女子オープン」(全英女子オープン)で海外メジャー初出場初優勝を達成します。

 今年の日本ツアーでは若い時からメディアに取り上げられてきた2人の選手がツアーデビューするようです。アスリートが成長する時期は人それぞれですから、あまりプレッシャーをかけることなく、それぞれの選手が太く長く活躍できるようにのんびりと見守ってあげたほうがいい気がします。

保井友秀